Monthly News Letter

絵を飾る喜び

私が美術業界に入ったのは30年近く前になりますが、初めて絵(版画ですが)を購入した時のことを、
今もはっきりと憶えています。

先輩社員から「お客様の気持ちを体験するために、先ずは自分が買いたいと思う作品を見つけ、実際に購入すること」とアドバイスを受けました。
日々の業務の中で、何となく好きだなあと思う作品は見つかるのですが、自分の給料で買えるかとなると、これがなかなか難しい。
ある日好きな画家の版画で、買えそうな金額のものが画廊に入ってきましたが、いざ購入となるとブレーキがかかり、
何度か業務の合間にこっそりとその作品を箱から出して眺めていました。
ようやく意を決して購入し、自宅に飾り、人の目を気にすることなく鑑賞できる喜びを味わうことができました。

その後は度胸もつき、買える範囲で気に入った作品を購入し、年3,4回の架け替えを楽しんでおります。
アートに限ったことではないと思いますが、鑑賞しているとそれを購入した時の思いや状況などが浮かんでくるのも
楽しいです。

よく「私には絵はわからない」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、理解することよりも好きか嫌いか、感動するかしないかが大切です。
「絵がわかる」のは、わかる努力をし続けているごく限られた人か天才くらいだと私は思っています。
作家自身が傑作だと発表しても、全く認められないといった話もよくあります。
巨匠や大家ほど悩み、その時に満足がいく作品を生み出せても、次の瞬間からもっといい作品を制作する努力をし続けます。
つまり、これという正解がないのがアートなのです。

気に入った作品を購入することは、少なくともそれを発表した作家、紹介した画廊とは価値を共有し、
応援することになります。
実はこのことが、作品を制作し続ける作家や紹介した画廊にとって最大の励みになるのです。

まだ家や会社に絵を飾る喜びを体験されていない方、どうか飾って楽しみたいと思うアートに出会えるチャンスを
見つけください。

そんな皆さんのお手伝いができることが、私たち画廊スタッフの一番の喜びです。


Author:
内田 繁弥
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